PTX3 Proteomics

敗血症患者血中ペントラキシン3(PTX3)複合体の
プロテオミクス解析
― 新規敗血症複合体マーカーの可能性 ―

The proteomic profile of circulating pentraxin 3 (PTX3) complex in sepsis demonstrates the interaction with azurocidin 1 and other components of neutrophil extracellular traps.

Daigo K, Yamaguchi N, Kawamura T, Matsubara K, Jiang S, Ohashi R, Sudou Y, Kodama T, Naito M, Inoue K, Hamakubo T.
Mol Cell Proteomics. 2012 Jan 25. [Epub ahead of print]
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図1 プロテオミクス解析の流れペントラキシン3(PTX3)は液性パターン認識受容体※1(Soluble pattern recognition receptor)として自然免疫反応に重要な役割を担う分泌タンパクです。通常血中にはほとんど存在せず、各種炎症・感染症で血中に出現し、特定の細菌の認識・除去を行なっていると考えられています。特に敗血症においては通常の数百倍(~200ng/mL)まで血中濃度が上昇することが知られています。その他、PTX3を人為的に発現させたマウスは敗血症による死亡への耐性が上がることが知られていますが、そのメカニズムは十分に解明されていませんでした。そこで敗血症でのPTX3の役割を解明するため、私たちは敗血症でPTX3と結合するタンパクを探索することにしました。

図2 敗血症患者血中のPTX3複合体タンパク群まず敗血症患者血中のPTX3複合体を抗PTX3抗体結合磁気ビーズで単離し、それらを高感度質量分析システムによる比較定量プロテオミクス法で網羅的に同定しました(図1)。詳細な解析の結果、同定タンパク群の中にNETs(Neutrophil extracellular traps※2)の構成タンパク質が含まれていることが新規に見出されました(図2)。

以上のプロテオミクス解析から得られたPTX3とNETs構成タンパク質との複合体形成に着目し解析を進めたところ、実際にPTX3と、NETs構成タンパク質であるアズロシジン(Azurocidin, AZU1)とミエロペルオキシダーゼ(Myeloperoxidase, MPO)との結合を示しました。特にAZU1は詳細にPTX3との結合メカニズムを明らかにし、かつNETsにおいてPTX3と同じ局在にあることを突き止めました(図3)。

図4 NETs内でのPTX3複合体構成イメージ図3 NETsでのPTX3とAZU1の共局在本結果から、PTX3はNETs内でAZU1やMPOなどの抗菌タンパク質と結合し、細菌の認識・殺菌効率を高める役割を果たしている、というPTX3の敗血症における新たな生体保護メカニズムが提唱されました(図4)。さらにPTX3-AZU1、PTX3-MPO複合体の血中濃度が新たな敗血症の診断・治療方策のマーカーになる可能性が期待されます。

本研究は順天堂大学練馬病院新潟大学株式会社ペルセウス プロテオミクスJSR株式会社と共同で実施されました。

※1 パターン認識受容体とは自然免疫系の一部で機能しているタンパクの総称である。細菌固有の分子や、生体自身が放出し危険を伝えるシグナル分子を認識して、自然免疫反応を発動させる。通常複数の分子を認識することができる。より詳しくは総説論文を参照ください(PubMed link)。

※2 NETsとは白血球の一種であり、細菌感染防御に働く好中球が放出するDNAと抗菌タンパク質からなるまさに網のような分泌物で、細菌を捕獲・殺菌する機能を持つ。PTX3はNETsの構成タンパクの1つである。より詳しくは総説論文を参照ください(PubMed link)。