WTAP

細胞周期およびRNAプロセッシングを制御するWilms’ tumor-1 associating protein (WTAP)複合体の同定

Identification of Wilms’ tumor 1-associating protein complex and its role in alternative splicing and the cell cycle.
Horiuchi K, Kawamura T, Iwanari H, Ohashi R, Naito M, Kodama T, Hamakubo T.
J Biol Chem. 2013 Oct 7. [Epub ahead of print]
PubMed
doi: 10.1074/jbc.M113.500397

我々はこれまで、ノックアウトマウスの解析およびRNAiによる解析から、核タンパク質Wilms’ tumor1-associating protein (WTAP)がcyclin A2 mRNAを安定化し、細胞周期のG2/M移行に必須であることを見出しました。WTAPは遺伝性腎臓がんの原因遺伝子Wilms’ tumor 1との結合因子として同定されたタンパク質で、核スペックル上でスプライシングファクターと共局在しており、またショウジョウバエでは、WTAPホモログfl(2)dはスプライシング調節因子であり、Sex Lethal、virilizeと協調して、性決定にかかわるスプライシングカスケードを制御していることが報告されています。しかしながら、哺乳類細胞でのWTAPのRNAプロセッシングにおける役割についてはほとんどわかっていませんでした。

そこで我々は、WTAPが細胞内でどのようなタンパク質と働いているのか明らかにするために、WTAPに対する特異的抗体を作成し、免疫沈降物のショットガンプロテオミクスにより新規WTAP複合体タンパク質を同定しました(図1)。プロテオミクス解析のポイントとしては、まず、抗原部位の異なる抗体を数種用いることで、結合タンパク質の結合部位とエピトープの重なりによる起こりうる免疫沈降のロスを補完しました。また、よりtransientな結合タンパク質を同定するために、ホルマリンクロスリンクと免疫沈降でのプロテオミクスを行いました。さらに、複合体タンパクとして同定したE3ユビキチンリガーゼHakaiタンパク質について、WT-Hakaiおよび結合部位の欠失ミュータントHakaiをbaitとしタグでのプロテオミクスを行い、WTAP複合体としてとれてきたタンパク質について特異性を確認しました。以上のプロテオミクス解析によりWTAPの複合体として同定したタンパク質は、その多くがスプライシング、ポリアデニル化、核外輸送などにのRNAプロセッシングに関わるタンパク質であり、そのうちvirilizerホモログ、zinc finger protein KIAA0853、Hakai、RBM15、BCLAF1、THRAP3はWTAP複合体のmajor componentであることがわかりました。

これらのmajor componentはWTAPと同様、いずれも核内で核質と核スペックルに局在し、そのうちSR-like proteinsのBCLAF1/THRAP3をノックダウンすると、WTAPの核スペックルへの局在が減少することが分かりました(図2)。核スペックルはRNAプロセッシング因子の貯蔵、複合体形成、修飾の場として考えられており、SR-like proteinであるBCLAF1/THRAP3はWTAPへの核スペックルへの局在化を促進し、複合体形成に作用していると考えられます。次に複合体としての生理機能を見るために、siRNAを用いて細胞周期の解析を行ったところ、major componentそれぞれをノックダウンすると、顕著に細胞増殖が抑制されG2期の割合が増えることがわかりました。さらに、WTAPがWTAP自身のオルタナティブスプライシングを制御していることを見出し、major componentのタンパク質のノックダウンでそれぞれ同様のオルタナティブスプライシングのパターンが見られることがわかりました。以上のことから、WTAPがこれらの結合タンパク質と複合体として、細胞周期およびオルタナティブスプライシングに作用していることが明らかになりました。

 

図1. WTAP複合体のプロファイル図1. WTAP複合体のプロファイル
 1-3) 抗原部位の異なる抗WTAP抗体でそれぞれ免疫沈降(IP)
 4) 抗ウィルス膜タンパク質抗体(negative control)
 5) H1122抗体でHeLa細胞を用いてIP
 6,7) ホルマリンクロスリンク(-/+)
 8,9) WT Hakaiと結合部位欠失Hakaiを発現した293Tを用いてIP

図2. Hakai deletion mutants.図2. Hakai deletion mutants.
 RING fingerの欠失変異体はWTAPと結合しない。

図3. 核内でのWTAPの局在図3. 核内でのWTAPの局在
 複合体タンパク質であるBCLAF1とTHRAP3をノックダウンするとWTAPの核スペックルへの局在が減少した。

図4. WTAP複合体のスプライシング制御のおける役割(モデル)
図4. WTAP複合体のスプライシング制御のおける役割(モデル)
 WTAPはBCLAF1/THRAP3を介して核スペックルに局在し、複合体を形成して転写部位にリクルートされる。WTAP複合体はターゲットRNAのスプライシングを阻害、またはイントロンのリテンションとポリアデニレーションを促進し、結果として短いアイソフォームが産生される。